大判例

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大阪高等裁判所 昭和31年(う)1650号 判決

本件公訴事実は「被告人は昭和二一年一二月頃より昭和二四年一二月中頃まで、大阪府南河内郡駒ケ谷村農業協同組合の書記として雇われ、会計係として同組合の経理並びに金銭出納事務を担当していたのであるが、昭和二四年度において同組合が預金をする場合には定款並びに組合総会の決議によつて、大阪府信用農業協同組合連合会、農林中央金庫、郵便局及び三和、大和、大阪、千代田の各銀行へしなければならないこととなつていたのに、同年一〇月四日頃右任務に背き自己の利益を図る目的をもつて、同組合が当時右信用農業協同組合連合会南河内支部に預金していた金一〇〇万円の定期預金通帳を担保に同支部から約金一〇〇万円を借り出し、これを大阪市北区堂島中一丁目二九番地大阪貯蓄信用組合において同組合に預け入れ、よつて前記駒ケ谷村農業協同組合に財産上の損害を与えたものである」というのであり、これに対し被告人は検挙以来右信用農業協同組合連合会河内支部から右定期預金通帳を担保に金一〇〇万円を借り出し、これを大阪貯蓄信用組合に預け入れたのは自己の勤める駒ケ谷村農業協同組合の組合長の指示によつて行つたのであつて、被告人の専断によつたのではない旨を終始主張していることは記録上明らかである。原判決書によれば、原審は被告人は自己及び組合職員の利益を図る目的をもつて任務に背き右のように預け替えをしたが間もなく大阪貯蓄信用組合が倒産したため回収不能になり、よつて自己の組合に金八七九、七六〇円に相当する財産上の損害を与えたものと認め背任罪を犯したものとして被告人を有罪としたのである。これに対し所論の要旨は、被告人は駒ケ谷村農業協同組合の書記として会計係を勤めていたことは争わないが、前記預け替えをするがごときことはその職務権限に属することではなく、それは組合長の職務権限に属していたもので、従つて前記のように預け替えをしたからといつて、任務に背いたとするのは当らない。又右預け替えは組合長麻野休三の指図に基いてしたものであることは証拠上明白であるのに、被告人が専断でしたとしたのは誤りであるというに帰着する。当審において検察官の請求により右公訴事実について「被告人は昭和二〇年一二月頃から昭和二四年一二月中頃まで大阪府南河内郡駒ケ谷村農業協同組合の書記として雇われ、会計係として同組合の経理並びに金銭出納事務を担当していたものであるが、同組合が当時、同郡富田林町大阪府信用農業協同組合連合会南河内支部に預金していた金一〇〇万円の定期預金証書その他関係帳簿類を同組合のため業務上預り保管中、同年一〇月四日ほしいままに南河内支部事務所において同支部に対し右定期預金証書を自己のため同支部から金一〇〇万円を借受けるための担保に差入れ、(更に右一〇〇万円を大阪市北区堂島中一丁目二九番地大阪貯蓄信用組合に預け入れ)もつて業務上横領した」という訴因に、罰条を刑法第二五三条に予備的に変更された。(中略)

以上の諸点をあれこれ比照して考察すると、被告人が本件預け替えを決行したのは、それにより生み出した利益を、自分を含む組合職員の厚生資金等に充当する目的によつたもので、会計係主任に過ぎない被告人が、このような目的のために一〇〇万円という大金を、専断で操作処分したものとは考えられず、組合長の指示があつたものと認めざるを得ない。この認定に則わない前記麻野証言その他の証拠はとうていこれを信用することができないのである。もとより農業協同組合の会計係主任書記が組合総会の決議を経ることなく、定款に背き指定外の金融機関に組合の金銭を預け入れることは、組合長の内諾あるいは指示があつても、正当な行為とはいえず、その目的をもつて業務上保管にかかる預金証書等を処分することは、その任務に背いた行為であることを否定することはできないが、被告人が本件預け替えをしたのは、前記のとおり組合長の指示に基き前例にならい、よつて得た利益を組合の会計に繰り入れ、これを組合職員の厚生資金等その他組合の諸経費に充当する意思であつたこと、すなわち本人たる組合の利益を図る意思であつたと認められるのである。右利益が組合会計に繰り入れられ組合職員の厚生資金として使用された場合には、組合職員である被告人らにも自然その利益が及ぶこともあり得べく、被告人においてこのことを認識したとしても、前記の如く直接に専ら本人たる組合の利益を図る意思であつたと認められる限り、右のような間接的な反射的な利益が被告人本人に及ぶことがあつても、未だこれをもつて被告人が自己の利益を図つたものとすることはできないといわなければならない。被告人の本件所為はむしろ予備的訴因である業務上横領罪を構成する要件を具備しているという蓋然性が強いが、このように任務に背いた行為があつても、それが行為者自身の利益のためでなく、本人の利益を図る目的をもつてなされたときは、不法領得の意思を欠くものとして業務上横領罪を構成しないことは最高裁判所の判例の示すとおりである。(昭和二八年一二月二五日第二小法廷判決、最高裁判所判例集七巻一三号二七二一頁参照)以上要するに、本件預け替えに当つて被告人は、自己又は第三者の利益を図り、又は自己に不正に領得する意思があつたものとする心証を得るに足りないので本件本訴因及び予備的訴因のいずれについても、犯罪の証明がないといわねばならないのに、原判決がその挙示する証拠によつて、被告人の前記所為が背任罪を構成することが明らかであるとして有罪の認定をしたのは、事実を誤認し且つ法令の適用を誤つた違法がある。

(裁判長判事 万歳規矩楼 判事 武田清好 判事 小川武夫)

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